飛火野の朝



雨上がりの朝が好きだ。

それは霧や朝モヤが発生しやすいからだ。

東の空の色が淡く染まり、森を白い霧が覆おうとしている。

奈良公園の飛火野。

夜明け前の静寂の中を歩く。

 

草を食む鹿。

朝モヤのこの姿が見たかった。

私以外にも木陰にはカメラマンがぞろぞろと。

息をひそめて鹿を狙っている。全然、気配は消せていないが鹿に気を使っているのは伝わる。

シャッター音のみのこの空間も好きだ。

もうすでに素敵な一枚を撮らせてもらったので、私はその場を立ち去り若草山頂上へと向かった。

 

 

 

若草山に登るときには必ず飛火野に立ち寄ることにしている。そして春日大社に立ち寄り、観光客のいない原始林側から遊歩道を歩き、山頂へ登頂するのがこの山の行程である。

平日の午前中に登ると人とすれ違うことが少ない。静かに深呼吸しながら歩くことができるので、ちょっとしたハイキングにはおすすめのコースだ。

しんどさは金剛山の半分以下で、とても楽なルートである。

下山してから東大寺などを散策するのも良きだ。

 

 春日大社へと向かう参道には光芒が出ていた。

光に誘い込まれ参道から外れて中に入ると。

 

 

神の化身がいた。

 

 

 

晩秋に向かうこの季節。

夜明けを待つ時間はとても寒かった。そして山頂の木々に付いている葉っぱは少なくなっていた。もう冬が来る。

 

私の息も鹿の息も等しく白かった。

とても静かな朝であった。

いい朝であった。