今まで何度も空振りしてきているもの



今まで何度も空振りしてきているもの。

それは雲海を見ること。

私の雲海予測の精度はとても低い。

雲海目当てに長い道のりを夜どおし運転して行くのだが、

だいたいは普通の夜明けを眺め、用意してきたコーヒーを淹れ、

適当に近くの山を歩き、黙って帰ることになる。

だから私の登山記録(ヤマップ)は早朝ものが多い。

 

今回の挑戦は奈良県の野迫川村でした。

空振りして帰るのは空しいので、何か他にも予定を作ろうとなり、

今回は夜中の高野山を見学することにした。

なんならそっちがメインだと自分に言い聞かせ、コーヒーを

準備して家を出る。

 

和歌山県から奈良県に入り、また和歌山県に入る。

ぐねぐね道で気が滅入る。

タヌキだったり鹿だったり、夜の山道は多くの動物が現れる。

衝突しないようにゆっくりと。アクセルはゆるめに踏む。

山中に入ると出発時には6℃だった外気温は1℃となっていた。

時おり発生するモヤに雲海の期待をしながら走らせる。

 

高野山に着いた。

大門がライトアップされている。

一瞬で気が晴れた。

金堂から金剛峯寺、奥の院の一の橋まで行ってみる。

誰もいない。灯籠に明かりが灯されているが、うす暗く少し怖い。

音はなく動物の気配もしない。

けれども多くの気配があるように感じた。

石灯籠が無数に並ぶが消えているものが一つもない不自然さ。

道にゴミや落ち葉が全く落ちていない不自然さ。

姿が見えないだけで多くの僧侶がここを掃除し、

数百年の間、毎日絶やさず灯の守りを続けているであろう。

そんなことを思うと写真を撮っていられなくなり、カメラをしまい、

歩き散策に切り替えた。

厳かで美しい夜の高野山であった。再び車に乗った時、気温は0℃と

なっていた。

 

さて雲海である。

第一候補地に到着し目を凝らすと遠くに少しだけ発見できた。

しかし、これではモヤ程度。

移動を決め、第2候補地に向かう。

すると気が緩んでいたのか道を間違えてしまう。

来た道をバックで延々もどる羽目になった。

片側崖で暗闇の山道バックはリアルに怖い。

高野山では怖い雰囲気を楽しんでいたのだと思った。

恐怖に手汗が止まらず喉がカラカラになった。

 

諦めて登山口に来た。

もうすぐ夜明けだ。

昨日の大阪の雨はこの辺では雪だったようでしっかり積もっている。

雪は嬉しい。4月中旬にもう一度冬を味わえて良かった。

 

夜が明ける。

一日の中で最も美しい時間だ。

足を止め東の空を見る。カメラを取り出しファインダーを覗く。

雲海が出ていた。

ずっと無音だった私の頭の中にオーケストラが鳴った。

もうシャッターを切りまくる。

雲海だ!雲海が出てくれた!1年半ぶりに見る雲海だ。

一応、山頂は踏んでおこうと登頂する。

早朝の朝はとても寒く、草木は凍っていた。それもまた美しく、

良い写真がたくさん撮れた。

下山すると雲海は跡形もなく消えていた。

コーヒーのことはすっかり忘れていた一日だった。